札幌の小さな書店『ラボラトリー・ハコ』を訪ねて
update:2026.08.02

札幌市中央区の街角に、物語の入口のような小さなお店があります。
今回取材でお邪魔したのは、“ものがたり広がる書店”『ラボラトリー・ハコ』さん。

訪れた時、小道の先へ誘われるような入口にわくわくしました。
まるで隠れ家を見つけたような雰囲気があり、扉を開ける前から「この先にはどんな出会いが待っているのだろう」と期待が膨らみました。
店内には、オーナーの山田さんが一冊一冊丁寧に選び抜いた本が並びます。

「音楽教室が本屋さんを取材?」
私自身も、取材前はそう思っていました。
しかし、お話を伺ううちに、本と音楽には、人の心を動かし、日々の暮らしに彩りを添えてくれるという共通点があることに気づかされました。
「知らないことを知ることで世界が広がる。行きたい場所が増えたり、好きなものがもっと好きになったり。落ち込んでいる時に本を読むと、少し気持ちが軽くなることもあると思います。」
山田さんの穏やかな言葉を聞きながら、本は知識を得るためだけではなく、暮らしに新しい視点や楽しみを与えてくれる存在なのだとあらためて思いました。。
本は読むものではなく『人生の道具』
本を選ぶ感覚は、好きな雑貨を選ぶような気持ちに近い——。
そんなお話を聞いているうちに、本に対して感じていた敷居の高さが、自分の中で少しずつ和らいでいきました。
「絵を描いてみたい。料理を楽しみたい。旅に出てみたい。そんな一歩を踏み出すきっかけとなる一冊を届けたいと思っています。」
山田さんは、本を読むことそのものではなく、その先にある暮らしとのつながりを大切にしているのだと感じました。

さらに、こんなお話もしてくださいました。
「本は、ドラえもんのひみつ道具のようなもの。困った時にポケットから取り出す道具のように、その人の背中をそっと押してくれる存在なんです。」
この言葉からは、本を読むこと自体が目的ではなく、本との出会いを通して誰かの日常に新しい一歩を届けたいという山田さんの想いが伝わってきました。
『難しくしない』『押し付けない』
個人書店に対して、「気になるけれど入りづらい」というイメージを持つ方も少なくないそうです。
「本を読むことを、難しいことだと思われたくないんです。」
山田さんが何度も口にされていた言葉です。
だからこそ目指しているのは、街のパン屋さんやお花屋さんのように、気兼ねなく立ち寄れる場所。
「本を読まない人でも、なんだか面白そうと思って手に取ってもらえたら嬉しい。」
その想いは、お店の雰囲気にも表れていました。
店内はどこか雑貨屋さんのような温かさがあり、本を探す時間も、カフェスペースでひと息つく時間も楽しめる空間です。

実際に私自身も、「本屋さん」というより、「また来たい」と思える居心地の良い場所だと感じました。
音楽好きにおすすめしたい一冊
——音楽好きの方におすすめの本はありますか?
そんな質問に対して山田さんが選んでくださったのは、音楽理論の本でも、音楽家の伝記でもありませんでした。

ご紹介いただいたのは、『音さがしの本』という、“音を聴くこと”をテーマにしたワークショップ形式の一冊。
山田さんによると、「音」そのものとの向き合い方が変わる本なのだそうです。
普段は何気なく聞き流している雨音や風の音、街のざわめき。
そんな身近な音に耳を澄ませることで、新しい発見が生まれるといいます。
「ピアノを習っている方にも、新しい発見があるかもしれませんね。」
その言葉を聞いて、私も思わずその場で購入してしまいました。
演奏する力だけではなく、「聴く力」や「感じる力」を育てることも、音楽を楽しむ大切な時間なのかもしれません。
一冊の本が、国境を越えて
もう一つ印象に残ったのが、イギリスからの留学生のお話です。

将来は日本の小説を英語へ翻訳し、イギリスで紹介したい。
そんな夢を持つ学生さんが、留学中、毎週のようにお店へ足を運んでいたそうです。
おすすめの本について語り合い、日本語で会話を重ねる時間は、山田さんにとっても忘れられない思い出になっています。
「小さな本屋に通ってくださったことが、本当に嬉しかったですね。」
その言葉からは、本を通して人と人がつながる喜びが伝わってきました。
本はページをめくるだけのものではなく、人と人を結び、言葉や文化を越えて思いを届ける力を持っているのだと感じます。
本屋さんがつなぐ、街との出会い
取材中、もう一つ印象的だったのが、山田さん考案の『ご近所マップ』です。

近くには個人書店やカフェ、アトリエなどが点在し、それぞれ徒歩5〜10分ほどで巡ることができます。
実は、山田さんがお店を始めた12年前、この周辺には今のような個人店はほとんどありませんでした。
それが少しずつ増え、お互いを紹介し合いながら、街全体を楽しめる場所へと育ってきたそうです。
「なんでこんなに集まったんでしょうね。」
そう笑う山田さんの人柄が、人とお店を自然と引き寄せてきたのかもしれません。
一つのお店との出会いが、新しい場所との出会いにつながる。
それは、本が新しい景色を見せてくれる感覚とも重なるように思えました。
実際に歩いてみたい方は、Webでも公開されている『ご近所マップ』をぜひご活用ください。
散策のお供に、お気に入りのお店との新しい出会いが待っているかもしれません。
『西線6条電停 ご近所マップ』
https://nishi6map.sorezore.net/
音楽も本も、『きっかけ』をくれる
今回の取材では、“読書のお供に聴きたい音楽”についてもお話を伺いました。
山田さんは、ジャズが流れるようなお店で本を読む時間がお好きなのだそうです。
また、小説の中に登場するクラシック音楽を店内で流し、お客様が物語の世界をより身近に感じられるよう工夫したこともあるそうです。
音楽は本の世界を彩り、物語の情景をより身近に感じさせてくれる。
そんなお話を伺い、本と音楽はどちらも感性を育み、新しい興味や出会いへ導いてくれる存在なのだと感じました。
『きっかけ』は、すぐそばに
取材の最後に、山田さんは「文化が廃れていくのが怖いんです」と静かに話してくださいました。
紙の本を手に取り、自分の意思でページをめくる時間。
その積み重ねが、人の感性や想像力をゆっくり育み、文化を未来へつないでいくのだと感じます。
それは、楽譜を開き、一音一音に耳を傾けながら音楽を楽しむ時間にも、どこか通じるものがあるように思いました。

音楽教室へ通い始めることも、本を手に取ることも、案外ほんの小さな好奇心から始まるものです。
一曲との出会いが人生を彩るように、本との出会いも、きっと新しい景色を見せてくれるはずです。
あなたのすぐそばにも、新しい景色との出会いが待っているかもしれません。
この夏は、夢中になれる一冊を探しに、小さな書店へ足を運んでみませんか。